シーランチ

2005年11月19日
今夜のテレ東「美の巨人たち」で放映された「シーランチ」に昔、行ったことがある。「シーランチ」とは海辺の共同住宅で、イェール大学などで教鞭をとり、ついには合衆国建築顧問に就任した有名な建築家である故チャールズ・ムーアが1965年に建てたものである。

…というのは今さっきテレビで知ったばかりで、家族も私もそんなこと何も知らないで行ったのだ。正確に言うと、「行かされた」のだけれど。当時、父の仕事の都合で私たちはアメリカに(ちょこっとのあいだ)住んでおり、確か建築関係の仕事をしていた日本からの客人が「ここへ行きたい」と言うので出かけたのだった。

その頃は人が日本から訪れるたびに、父が車を走らせ、さまざまなところへ観光にお連れしたものだったが、もっとも遠くまで連れて行かれたのがこのときだった。今夜のテレビでも「地の果て」なんて言っていたけど、サンフランシスコの北方160キロ、本当に本当に遠かった。海沿いの道をうねうねと走る車に延々と何時間も乗っていたので、車酔いして気持ち悪くなったっけ。

「シーランチ」は何かのついでに寄れるようなところではなかった。観光地も、地元の街からも遠く隔たっていたように思う。何もない。ただただ海岸線が続くだけ。アメリカにいた頃、ドライブなんて何度もしたし、もっとファンシーな場所にも行ったのに、この単調で退屈だったドライブのことをいまだによく覚えているというのもおかしいようだけれど、こういう「何もなさ」こそまさしくアメリカらしいというか「名物」だと今は思う。

番組で見た「シーランチ」の木造の外壁は長年の風雨にさらされたさまをそのままさらしているように見えたので、「あれ?」と思った。この建物の色は「白」じゃなかったっけ…? 

何時間もの苦行ドライブを経て、突然ぱあっと開けた「シーランチ」は海と空の抜けるような青、そしてすっきりした白い建物のコントラストがあざやかで、子ども心にもとても洗練された場所に思え、この客人がわざわざ行ってまで見たがったのも納得できる気がしたのだった。私たちがここを見に行ったのは1974年。できて10年たっていないから、白か、あるいはもっと木目を活かしたナチュラルな色合いだったのかもしれない。私の思い違いでなければ。

それにしてもここをまた見ることができるなんて、「夢にも思わなかった」とはまさにこのこと。「もう絶対に、ここに来ることはないだろうなあ」と思ったから、これだけ記憶に残ったのかもしれない。建物の印象は当時と変わっても、海岸線は昔と変わらないように見えた。

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