憶測だが中山可穂は好き嫌いが分かれる作家じゃないだろうか。ファンか、「ついていけない」と思うか。私は前者だが、この「ケッヘル」は上巻でいちど挫折しました。その後、図書館で上下巻揃った折に借りて読み通した。「今までの焼き直し」感が強かった上巻のあと下巻ではぐーっとダイナミックに物語が進む。

中山可穂の作品の恋情は切りとられたようにくっきりしている。切り口が鋭いから、覚悟して近づかないと、あるいはそうする必然性がないと怪我をする…といった感じがいつもするので私はそんなところにほんの少しだけ辟易しながらも嗜癖してしまう。あと「血のつながり」より「たましいのつながり」的な家族設定がわりととあるのも好き。

本作では「モーツァルティアン」の男女たちのあいだの愛憎が描かれるが、ある登場人物(女性)が不幸にも遭遇する事件が、彼女の性格設定とあいまって私には自分の心身がえぐられるような体験として感じられた。「それ」が小説で描かれることはよくあるが、こんなに痛ましい体験として読めたのは初めてだ(しかもごく簡潔に書かれているだけなのに)。

最後の最後に明かされる、事件の被害者である彼女と恋人しか知らない「秘密」は、悲惨な事件と同じくらいの衝撃をもって(ただし「救い」という方向に)自分には伝わった。「運命の出会い」―ピュアなものはピュアであるがゆえにはなはだしく傷つきやすいが、貴い(one and only)のだと思う。

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